わたしが軽自動車を選ぶ理由。

軽自動車に乗った、
淡路産玉ねぎの伝道師 
「農家の孫まっち」こと黒田茉佑さん

2023.10.23

トレードマークのオーバーオールで、畑作業をしたり、農作物を運んだり、飲食店を訪ねたり。「農家の孫まっち」さんのInstagramやTikTokには、日々の活動の様子がアップされています。広告代理店の営業職から農業へ転身したまっちさんに、仕事のモチベーションとその傍らにある2台の軽自動車の話を伺いました。

軽自動車で、毎週60店舗へ絶賛納品中

 愛車はスズキのハスラー。後部座席をフルフラットにして(時には助手席も使って)、積み込んだコンテナの中には、淡路島産のみずみずしい玉ねぎが詰まっています。「今、大阪を中心に関西圏で約60店舗ほどの飲食店や販売店と契約していただいています。毎週直接納品に回るのが大切な仕事です」。道中は、Apple Musicのトップ100を紹介する番組に合わせて歌いながら、ドリンクホルダーにはカフェラテが定番です。

 納品先では、「甘みがあっておいしかった」「お客様からも好評だったよ」など、商品へのフィードバックを受けることもしばしば。それを農家のみなさんに伝えることも欠かしません。「生産者は、案外直接消費者とつながることが少ないので、食べた方の声を伝えるととても喜んでくれます」とまっちさん。

玉ねぎの島で一番になるには?

 新卒で広告代理店の営業職に就いたまっちさんは、毎日100件の電話をかけてアポイントをとる日々を送っていました。今の時代にテレアポの必要がある?と疑問に思い、上司にもっと効率のよいやり方を直訴したこともありましたが、「それが仕事だから」と一蹴されてしまいます。「私、結構がんばれるタイプなのですが、その方向が違っていると思うと我慢ができなくて…」と当時を振り返ります。

 両親が実家の淡路島に帰郷することになり、まっちさんも営業の仕事を辞め、祖母の生業であった農業を手伝うことに。主な生産物は玉ねぎです。「始めてみて、1つの作物は年に1度しか収穫できないので、なかなか経験値が貯まらないことに気が付きました。これから10年やっても既に50年以上のキャリアのある先輩たちには敵わない。遠い目標が苦手で、しかも一番になりたい私には、この道は険しく思えました」とまっちさんは笑います。そこで方針を転換し、既に十分においしい淡路島の玉ねぎの周知を図り、農業に従事する人たちの収入を上げる方法を考え始めます。「既存の卸先ではなかなか付加価値を認めてもらえない。であれば、直接販売をする必要がある。誰にどのような方法で販売すればいいかを考えることにシフトしました」。

 そこで始めたのが、TikTokなどのSNSを駆使した淡路島の玉ねぎをブランディング。同時に大量に使ってもらえる飲食店への営業を開始します。関西圏の主要都市のレストランをリストアップし、メッセージを送り、リアクションのあった店舗へ実際の玉ねぎと資料を持って営業にまわる日々。飛び込み営業もずいぶんやったそう。「テレアポで得たノウハウとメンタリティが活きました。ただ悩みもあって、私が行っても農家だって信じてもらえないんです(笑)」。
 最終的に説得力を増したのは、生産物に対する知識の深さでした。淡路島は海に囲まれているため、土に多くのミネラルを含んでいるので、玉ねぎの甘さが増す。さらに玉ねぎにとって重要なのは乾燥で、島でも風が強い南の方がより甘みが凝縮される…。玉ねぎの話となると、まっちさんの話に熱が入ります。信用を得て、1年も経たずに60店舗に及ぶ納品先を獲得しました。

仕事の傍らにいつもある軽自動車

 まっちさんは現在、農作業や運搬に使っている軽トラと、普段使いしている軽自動車(ハスラー)の2台を所有しています。軽トラを購入する際、祖母にマニュアル車を勧められました。「いろんな路面の状態にも対応しやすいからって。私はオートマチック車限定の免許しか持っていなかったので、教習所に通ってオートマチック限定を解除し、マニュアル車の運転ができるようになりました。実際仕事を始めてみると、後輪だけ畑に突っ込んでコンテナの積み下ろしをすることもあって、おばあちゃんの言う通りだったなと思っています」。

 普段使いのハスラーにも、こんなエピソードが。「急に取引先が増えたことで、玉ねぎが足りない事態に陥りました。車を走らせながらも、目はキョロキョロと玉ねぎを探していて。ある時、視界の先に玉ねぎ倉庫が!農道の細い道に車を走らせ、あまりに狭くてちょっとドアを擦ってしまったりしつつ、その場で交渉して、無事に玉ねぎを手に入れることができました。軽自動車だったから助かった瞬間です」。なんと1年間の走行距離は3万キロにも及びました。思い立ったことを、まずは実行に移すまっちさんのフットワークの軽さを助けているのは、小回りが効いて馬力がある、2台の軽自動車の存在も大きいようです。

農家と飲食店の架け橋に

 まっちさんのSNSには、日頃の農家での仕事はもちろん、飲食店で調理された玉ねぎの様子もアップされています。鉄板焼きのレストランで、サシがたっぷりはいった和牛と一緒に、まるのままじっくり火を入れた玉ねぎの動画からは、その柔らかさや甘みまで感じられるよう。「納品の時に、動画を撮らせていただくこともあります。せっかくなので飲食店の集客のお役にも立ちたい。メニューに『農家の孫まっちの玉ねぎ』と名前を出してくださるところもあるんですよ」。

 さらに思いがけない効果もありました。それは動画を見た農家のみなさんが、自分の作ったものがどのように調理されているかを知れたこと。「作った先でどのように食べられているかを知ることで、『こんなに大事に料理されとるんやね。もっとおいしい玉ねぎを作らんと!』と、がぜんやる気を出してくれます」。

 まっちさんは農家と飲食店の架け橋になれればと考えています。「飲食店のみなさんからも、『もっとおいしい野菜を作って欲しいので、ぜひ農家を助けたいが、接点もなくどうしたらいいか分からなかった』という声をたくさん聞きました。購入することがよりよい循環につながることを喜んでくださる方も大勢います。私のような両者を繋ぐ役割がいることで、お互いが見えるようになるみたいです」と、その意義を話します。

仕事大好き!

 最近もスーツケースに玉ねぎを詰めて、夜行バスで東京へ営業に行っていたという、まさに自分から動き続けるまっちさん。玉ねぎの事業は引き続き拡大して人を雇いたいと考えつつ、既に次の事業の検討を始めています。それは海外からの観光客を、淡路島で受け入れること。「いま淡路島を訪れる観光客数は1年間で1500万人ほど。そのうちインバウンドは1%の15万人。淡路島は、他の都市とはまったく違った体験を提供できるという意味で、知ってもらうことができれば、もっと海外の人に訴求できると思うのです」。TikTokで淡路島の魅力を発信しつつ、レンタカーや宿泊事業を提供できないかを模索しています。

 まっちさんは「なぜこのサービスがないのだろう?」という気づきに始まり、0を1にすることに関心を持っているように見えます。「人と同じことをすることに興味が持てない」と笑いながら、「私、仕事がすごく好きなのだと思います。この方向でがんばればおもしろくなりそう!とビジョンが見えたら、力を発揮できるタイプです」と話します。
 眼の前の現実をしっかり見て、「あったらいいのに」というサービスを生み出し、フットワーク軽く実現していく。どんな事業を展開していくのか、今後の「農家の孫まっち」から目が離せません。

農家の孫まっち 黒田茉佑さん