わたしが軽自動車を選ぶ理由。

介護タクシーに乗れば、
どこにでも行ける 
株式会社ロコアクシュ 菊川瑛亮さん

2023.11.16

茨城県牛久市を中心に、4台の介護タクシーを保有する株式会社ロコアクシュを経営する菊川瑛亮さん。事業用の車両はすべて軽自動車。「カッコよさよりも実用性を取りました。そのおかげで事業はうまく運んでいます」と力強く断言する菊川さんに取材しました。

「今日も無事に帰って来られた」

 現在菊川さんを始めロコアクシュに所属するスタッフ4人は、全員が介護職の資格を持ち、介護事業所等での勤務経験があります。「介護タクシー」は、単なる車による“旅客の運送”だけでなく、“自宅から目的地への介護”という福祉の側面での役割も大きいため、資格を必須としています。家の玄関から出て、車に乗り込み、目的地に到着し、中に入る。その一連の過程を安全に行えるようフォローするのが仕事です。そして多くの場合、同じ過程を繰り返して家に帰ります。

 菊川さんはこう説明します。「一番需要が多いのは、通院です。お年を召して身体機能が衰えてきた方や車椅子の方、身体を起こすのが難しい方ほど、定期的に病院に行く必要があります。お客様によく言っていただくのは『今回も無事に帰ってこられてよかった』という言葉です。これを聞くと、私たちとは外出のハードルの高さが段違いなのだと痛感させられます。
 介護タクシーを利用できるのは、基本的には要介護認定を受けている方です。自費の方、介護保険を利用して乗られる方の2パターンがあります」。

割に合わないと忠告された起業

 もともと地元銀行に勤めつつ、いつか起業したいという希望を持っていた菊川さん。ある時一人暮らしをしていた祖母が自宅内で転倒し、近所の人が気づくまで数時間倒れたままだったという経験をします。「幸い無事だったのですが、日本中でこういうことが起きているんだと体感した出来事でした。これをきっかけに高齢者の方の安全に関わる仕事に携わりたいと考え始めました」。介護事業所で送迎の仕事に就き、介護福祉士の資格を取得。実地での経験を積みます。

 起業準備にあたって、菊川さんはデイサービスを行う介護施設など100件あまりを訪問。その時にケアマネージャーの数人から、以前介護タクシー事業をやっていた会社があったものの、いずれも撤退したことを聞かされます。「『単価とサービス量が割に合わないと聞いたよ。気をつけてがんばってね』と言われました。最初の立ち上げ時は、不安もありましたね」と菊川さんは当時を振り返ります。

カッコよさ<実用性

 周りの心配をよそに、菊川さんは創業時から利益を出すことに成功します。一番の要因は「事業用車両に軽自動車を選んだことです」と断言します。選んだ車は、ダイハツのアトレースローパー。低床で、後部座席に車椅子のままスムーズに載ることができる福祉専用車両です。「介護タクシーだと、もっと大きな車両が選ばれることが多いのです。私も最初は大きい車でカッコつけようかななんて思ったのですが(笑)、他の事業所を見学させていただき、様々な条件を考えた上で軽自動車にしようと決めました」。
 例えば、待機時にエンジンを付けたままだと燃費がぐっと悪くなること、営業エリアは狭い道が多いこと、玄関先まで車を寄せる必要が多いことなど、理由は様々にありました。「大きな車だと効率が悪い。実用性を取りました」。

 いざ営業を始め、軽自動車を選んだことは間違っていなかったことを実感しています。 ハッチバック車の後ろを開けて、スロープに従って、車椅子のまま車内へ。付き添いの人も一緒に乗り込むことができ、車内には意外なほど余裕があります。
 「実際の送迎の場面でも小回りが効きます。『そこUターンして!』なんて場面も時々あるんです。最近は4台合わせて一日20〜25本くらいの送迎をしています。他社のおそらく3〜4倍の稼働ができているんじゃないかな」。車はもちろん文字通りスタッフ一同がフットワーク軽く動くことで、着実な成果を挙げています。

結婚式に行けた!

 このようなお客様がいらっしゃいました。高齢者施設に入っていて、普段は車椅子で生活をしている女性が、孫の結婚式に出席するのに、ロコアクシュの介護タクシーを利用することに。
「ご家族も、おばあちゃんに来てほしいけれど、どうやったら出席できるか悩まれていました。私が送迎を担当して、施設から式場まで片道30分、往復1時間ほど走りました。体調のこともあり、挙式だけの参列でしたが、とてもうれしそうで。帰り道ではちょっと涙ぐむようなシーンもありました。参列するわけじゃないのに、私もスーツ着ていくかな、なんてちょっとソワソワしちゃって(笑)」。

 身体がなかなか動かなくなっても、誰にでも行きたい場所はもちろんあります。お墓参りに行きたいという希望も多いそうで、数年ぶりに夫のお墓に参れたと喜ばれることもしばしば。これまで行きたかったけれど、諦めていた人たちも多いのでしょう。
 他にもこの事業を始めて気づくこともありました。「介護タクシーは、お客様本人はもちろんご家族の負担を減らす仕事だということも分かってきました。私たちがうかがうようになるまでは、小柄な奥様が、ご主人の身体を支えて、車に押し込めるようにしてやっと移動していた、なんて話を幾度となく聞きました。『お願いできて助かる』と、ご家族から感謝されることがとても多いです」と菊川さん。

新たな町で、人を運ぶ

 菊川さんは、常に車内に携帯電話の充電器を常備しています。介護タクシーの依頼の電話で、あっという間に充電が減ってしまうから。「予約の8割くらいはケアマネージャーさんからで、残りの2割が個人のお客様です」。

 一般のタクシーであれば、住所さえ分かればいいのですが、介護タクシーの場合ヒアリングが必要です。車椅子使用か、歩いての利用か。どのような車椅子の形状か。家の中の段差は? 玄関から車までのアプローチは? 安全に運行するために事前に聞いておくことがいくつもあります。「基本一人で担当しますので、事前情報が大切なんです。初めてのお客様は、私がうかがうようにしています」と菊川さん。

 現在、第2の拠点を検討しています。「運行管理者資格を取得し、カバーできていない近隣の市町村に支店を作りたいと考えています。このサービスがあれば助かる潜在的なお客様が、どの街にもいらっしゃいます。そのためにやっているわけではありませんが、お礼を言っていただくと、役に立てたとうれしくなります」。菊川さんは軽自動車を頼りになる相棒として、ますます意欲的に経営に取り組んでいます。

 休みの日は家族とドライブに出かけることが多いという菊川さん。「運転が好きなんですね」と尋ねると、「確かに!意識したことはなかったけれど、車も運転も好きだから、この仕事を事業にしたのかもしれませんね」と思わず笑いが溢れました。

株式会社ロコアクシュ 菊川瑛亮さん