わたしが軽自動車を選ぶ理由。

軽やかで現代的な車と暮らそう。
飯田有抄と浦久俊彦が
軽自動車を選んだ理由。

2025.11.06

クラシック音楽の世界で活躍する飯田有抄さんと浦久俊彦さん。二人が語る軽自動車との付き合いには、単なる移動手段を超えた、生き方や価値観が映し出されていました。

PROFILE

クラシック音楽ファシリテーター 飯田有抄


東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシック音楽ライターおよび音楽関係の翻訳(英語)として活動を開始。雑誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラムなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会やプレトーク、教育イベントやワークショップのファシリテーター、セミナー講師、アドバイザーとしての仕事に従事。


文筆家・文化芸術プロデューサー 浦久俊彦


欧州日本藝術財団代表理事、愛知県教育委員会教育アドバイザー、「ダ・ヴィンチの学校」学長として、未来の文化人育成にも力を注ぐ。2021年3月、サラマンカホール音楽監督として企画した『ぎふ未来音楽展2020』が、サントリー芸術財団第20回佐治敬三賞を受賞した。著書に『138億年の音楽史』(講談社)、『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト』『ベートーヴェンと日本人』(以上、新潮社)などがある。

私はこんなふうに軽自動車と親しんできたー飯田有抄さんの例

 様々な業界で活躍する人たちが、日々軽自動車を愛用しています。今回お話をうかがうのは、文化芸術、とりわけクラシック音楽のジャンルで活躍しているお二人。それぞれの理由で、それぞれのスタイルで軽自動車を使いこなしてきました。

 一人目は、クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さん。クラシック音楽を通じて、日々の暮らしを豊かにする水先案内人となるべく、コンサートの曲目解説やCDのライナーノーツ、書籍を執筆し、インタビューやセミナーに取り組んでいます。
 その飯田さんが最初に乗った軽自動車は、軽トラックでした。スーパーチャージャーのついたSUBARUのサンバートラックを選んだ理由がなんともユニーク。

「軽トラの荷台にカブを積んで、景色のいいところまで移動して、その土地を楽しんでいました。自分好みの場所でカブをおろしてイエーイ!と風を切って走るんです。これがすごく気持ちがいよくって。
 東京から父が住んでいる山梨県甲府市まで、中央道で向かう時も、スーパーチャージャーのついたサンバーは、さすがかつて“農道のポルシェ”と呼ばれただけあって、頼れるパワーの持ち主でした。私は身長が150cmと小柄なのですが、サンバーはクラッチの操作もらくらく。まったく左足に苦痛もなかったし、車体感覚が自分になじんで、自分の延長として手足のように使うことができました」と飯田さん。

 その後、飯田さんの愛車となったのがHONDAのN-VANでした。飯田さんの相棒であるトイピアノを安全に運びたいというニーズに、ぴったり応える軽自動車でした。
 「後部座席がフルフラットにできるというのが、当時は画期的で。ハイルーフで収納力も抜群。私は様々なトイピアノを運んで、手作りのコンサートを行うこともあり、どこへ行くにもN-VANがお伴になってくれました。機動力もあり、ターボも快速で、本当に大好きな車です。

シートを倒せば、愛車の原付カブの積み込みもなんのその

 しかもみなさんこのイメージはあまりないかもしれませんが、運転席、助手席の座り心地がすごくいいんです。働くために長時間車に乗る人のことを考えつくされた車なのだと思います。肘置きの位置や電源を取る場所、フックがついている場所の工夫もすばらしい。身体が疲れないので、コンサートを終えて200km運転して帰ってくる、などのハードな日でも乗り切れたのは、N-VANのおかげです」とその愛を語ります。

僕はこうして軽自動車にたどり着いたー浦久俊彦さんの例

 浦久俊彦さんは、フランスで20年にわたって音楽を始めとするアートに関わる仕事に取り組んだ後、日本に帰国。現在は文化芸術プロデューサーとしてコンサート企画や、劇場運営に携わっています。アートに関わる著作も多く、2025年には本好きが高じて、軽井沢に本が住むための家「ひとり図書館」を建設。多くのアーティストが訪れる場となっています。

現在の浦久さんの愛車は、初めての日本車として手に入れたSUZUKIのジムニーです。自動車遍歴は、このライフスタイルの変化と関係していました。

「フランスに長く住んだので、ずっとヨーロッパのメーカーの車を乗り継いできました。どの車も愛すべき個性を持った車たちでしたし、帰国してからもセダンタイプのジャガーに20年間乗ってきました。そのような僕がなぜヨーロッパ車を手放したのかというと、いくつか理由があります。

 まず東京で巨大な四駆の外国車が走っているのを見て『はたしてこれは日本の風土に合っているのだろうか?』という疑問が湧いてきたのです。狭い道に不似合いな車は、経済資本主義で肥大した価値観を表現しているだけなんじゃないかと思えてきた。僕はいつか日本車に乗る日が来たら、日本の風土が生んだ自動車文化を体現しているような軽自動車がいいなと、かねてから思っていました。軽井沢に住むようになって、まさにそのタイミングが訪れたというわけです。
 スキー場で多くの車が立ち往生する中を、軽快にスイスイと抜けていくジムニーを見かけたことがありました。その姿がかっこよくて印象に残っていました」と浦久さん。

 ジムニーとの生活を始めるにあたって、象徴的な出来事がありました。納車日に大雪が降ったのです。
 「納車ができそうにないと言うものだから、でもジムニーは雪が得意でしょう?と、スタッドレスタイヤに履き替えての納車をお願いしたんです。するとすぐに手配してくれて、無事に雪の中車を受け取ることができました。ジムニーと僕たち夫婦でゆっくりと帰路につくことになったのですが、初めての出会いにも関わらず、すごく安心感があった。この車とだったらどこへでも一緒に行けるんじゃないかという頼もしい気持ちになりました」と話します。いままさに乗りこなしている最中のジムニーの感想を聞いてみました。

 「もちろん乗り心地はラグジュアリーカーには敵いませんよ。しかし僕がすごく好ましいと思うのは、日本の風土に合わせて日本人が作った車だということが、乗っていて伝わってくるところ。やっぱりキチンとしている。機能的だし、気が利いている。僕にとっての軽自動車って、安くて便利で手軽な車というよりは、余分なものを削ぎ落として残った、本当に大切なもので構成されている車というイメージです」とのこと。軽井沢では山の中に分け入ったり、薪を運んだりと、ジムニーらしさを発揮して大活躍しています。

軽自動車の軽やかさは、現代的

 軽自動車を愛用する二人の話からは、車の乗り心地や機能性そのものだけでなく、いまの社会にフィットする車のあり方も見えてきます。
「浦久さんのお話を聞いていて、私もこれからますます軽快さというのが重要になっていくと感じています。私の住んでいる地域も電信柱が立ち並んでいて、細い道が入り組んでいます。安全運転でフットワーク軽く出かけられないと、どんどん行動範囲そのものが狭くなってしまいそう。私はカメラも趣味にしているのですが、どんなにいいカメラでも重たいとどうしても持ち出すのがおっくうになってしまいます。自分自身もこれから老いていくことを考えると、行きたい場所にサクッと出かけられることの価値は大きい。その道具としての軽自動車に可能性を感じます」と飯田さん。

 浦久さんも応じます。
「現在多くの人が、環境の激変や不安定な社会状況に不安を感じています。いわゆるこの先が見えない時代にあって、求められているのは、軽さだと思います。さきほどいわゆる“お金持ちであること”を誇示する意味での車の話をしましたが、軽自動車の思想は真逆です。

 僕は自分の活動を通じて“文化人”を育てたいと考えてきました。これはエリートという意味ではありません。本当にクリエイティブなことをやる人たちは、いまの文脈から外れていたり、社会の周縁にいたりします。僕にとって文化人は、カルチャーの語源でもある“cultivate=耕す”の意味の通り、土とともにある人たちです。土地と強く結びついて生み出す人たちのことです。軽自動車はそのような人たちとともにある車でもある気がしますね」。

 飯田さんも「確かに。私は“いばってない”ということがとても大事だと思っています。いばっている人がいる場は、萎縮してしまう人がいたり誰かが我慢を強いられたりして、窮屈です。でも軽自動車ってそういう意味では、親しみやすくて、みんなの足となって、キビキビと動いてくれる、愛おしくてかわいい存在です。生活とともにあって頼れるのに、ぜんぜんいばっていない。私はなんだかシンパシーとともに、すごくいい存在だと感じています」と軽自動車らしさを表現します。

音楽家と車のふかーい関係

 さて音楽と縁の深い二人だからこそ聞いてみたかったのが、車内でどんな音楽を聞いているのかということ。すると意外な返事が。

「音楽は、音を聞くものであるのと同時に、静寂を聞くものです。無音になることができない車内では、音楽を聞く発想があまり生まれません」(浦久さん)
「私もエンジンの音を聞き、AMラジオから流れる人のおしゃべりに耳を傾けている方が楽しいかも」(飯田さん)

 プロとして音楽と日々向き合っているからこその返事でした。一方で、音楽家たちは自分の楽器を運搬するというのも、実は大きな問題です。飯田さんはかつて「楽器運搬問題をビシッと解決! 軽自動車『ホンダN-VAN』に打楽器やトイピアノはどのくらい積める?」と題したウェブ記事で、トイピアノや打楽器を実際に軽自動車に積み込む実験を行ったことがあります。

「あの記事ではティンパニが何個入るか?という実験をしましたが、それ以外にもコントラバスなど、大きな楽器を演奏する人たちは日頃から移動が大変です。自分の分身のような、肌身離さず持ち歩きたい楽器を運ぶには、ボックスタイプの軽自動車はとても便利だと思います。音楽家たちも選択肢を広げて、自分にピッタリ合う移動手段が探せるといいですよね」と話してくれました。

 やりたいことや、ライフスタイルの変化に合わせて、自分にピッタリの車を選択してきた飯田さんと浦久さん。その結果選ばれた軽自動車からは、二人の暮らしへの考え方を覗き見ることができました。軽自動車の小さな車体に込められた工夫と考え方は、いまの時代に私たちを自由にしてくれるアイデアに満ちているのかもしれません。